Tokyo Document Recovery Assistance Force
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2011年12月26日月曜日

奈良文化財研究所での保存科学研究集会で文書復旧システムの実演をしました

21、22日の両日、奈良文化財研究所で研究集会『被災文化財のレスキュー--保存科学の果たすべき役割と課題』が開催されました。東京文書救援隊は21日第二セッションの16時35分~18日に、同集会の会場において「東京文書救援隊の文書復旧システム---その考え方と技術」として実演とポスター発表を行いました。同集会の参会者は150名を超え、実演にも多くの方が参集してきていただき、ご評価、ご助言を頂きました。



予稿集掲載論文は以下の通りです。

東京文書救援隊の文書復旧システム---その考え方と技術

ネット版毎日新聞(毎日JP)の記事にも。

文化財:研究者ら150人、被災資料復旧で意見交換 奈良・平城宮跡資料館で保存科学研究集会 /奈良



2011年12月24日土曜日

海水は本や文書の紙にどのような影響を与えるのか? 東京藝大と東文救との共同研究発表


海水に浸漬した本や文書の紙はそのまま放置すると将来、どうなるのか? --- 内外での知見がいっさい無かったこのテーマの研究成果が、21、22日の両日に開催された保存科学研究集会『被災文化財のレスキュー 保存科学の果たすべき役割と課題』(奈良文化財研究所主催)でポスター発表されました。



「海水で被災した紙資料の洗浄と湿熱劣化試験」と題されたこの発表は、東京芸術大学大学院美術研究科保存科学教室と東京文書救援隊の共同研究です。救援隊のスタッフが4月上旬に宮城県塩竈市での瓦礫撤去ボランティアの際に現地の港に堆積したゴミの中から拾ってきた本(1971年初版1500部限定)と、新たに購入した同じ本(被災していないもの)の本文紙に、洗浄処置と加速劣化試験を行い、その違いを比較検討しました。


この結果、洗浄は塩類成分の除去に十分に有効であること、また海水成分や水処理が、紙の物理的強度や変色に影響を及ぼす顕著な差は見られないことが明らかになりました。さらに4週間の湿熱劣化(80℃、65%RH)試験で検討したところ、劣化挙動にもほとんど差がないことも示されました。


予稿集掲載論文と当日のポスターは以下の通りです。






なお、今回のサンプルは1970年に刊行された中性の書籍用上質紙であり、元々劣化しにくい性質を持っています。これと、例えば酸性の中質紙、リグニン成分が多いわら半紙や新聞紙、リサイクル紙であるコピー用紙、あるいは和紙に対する海水の影響を同じように見ることは早計でしょう。また、とりわけ近現代の文書資料は、使用されている紙もさることながら、イメージ材料(インク等)は多様です。海水の塩分はインクや顔料の褪色等をもたらさないのか?----こうした様々なモノへの長期的な影響の研究はこれからの課題です。

国立公文書館の被災公文書修復事業を支援し、岩手県と宮城県の5カ所に復旧システムが導入されます

独立行政法人国立公文書館は、東日本大震災により被災した岩手県及び宮城県下の各市町(岩手県:陸前高田市・山田町、宮城県:気仙沼市・仙台市・石巻市(女川町分も含んで実施))において、内閣府から被災公文書等修復支援事業費補助金を受けて、被災公文書等修復支援事業を実施します。いずれも東文救文書復旧システムの導入が予定されています。同事業の実施計画は下記のHPに。








2011年12月16日金曜日

簿冊や書籍のドライクリーニングに適した新型ボックスを開発しました

東京文書救援隊はこのほど、カビや汚泥に見舞われた簿冊や書籍のドライクリーニングに適した新しいドライクリーニング・ボックスを開発しました。これまでの紙製(中性コルゲートボード)のドライクリーニング・ボックスは、簿冊等を解体した一枚もの用のドライクリーニング作業に適したボックスとして開発されたものですが、今回の新型は解体を前提とせず、簿冊や書籍をまるごと掃除するためのものです。特にひどいカビや汚れが付着した簿冊等のドライクリーニングに適しています。もちろん、一枚もののクリーニングにも、従来型ほどには資料のハンドリングは簡易ではありませんが(アクリル透明上蓋を開閉して資料を出し入れするため)、問題なく適用できます。

ボックスにはカビやアスベストも捕捉し外に逃さないHEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)が着いた掃除機を装着します(掃除機は利用者が購入します)。お手持ちの家庭用の掃除機でもHEPAあるいはULPA(HEPAよりもさらに微細な塵埃をフィルタリングできるレベル)レベルのものならば装着が可能です。 また、掃除機のHEPAによるフィルタリングの前に、大きな塵埃をあらかじめ除去できるフィルターを着けました(写真の黒いタンク)。二重のフィルタリングにより掃除機のHEPAフィルターの交換頻度を大幅に下げることができます。






掃除機による吸引気流(suction air stream)は穏やかですが、常に手前から奥に向かって流れ、ボックスの下部および右側面で吸引集塵するため、ボックスの外に塵埃が出ることは一切ありません。このため作業者はノーマスクでも、安全に作業ができるほどです(ただし実際の作業では、クリーニング前後の処置がありますので、マスクの着用をお勧めします)。








東京文書救援隊は従来型の紙製クリーニング・ボックスと併せ、この新型ドライクリーニング・ボックスを、簿冊などのカビや汚泥のクリーニングに使いたい被災地や被災地支援を行なっている機関に提供します。ご相談下さい。